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2026.03.14
腫瘍科

犬の軟便の原因がリンパ腫だった症例|腫瘍マーカー検査から診断に至ったケース

遠くを見つめる散歩中の柴犬

犬の軟便は比較的よく見られる症状です。
食事の変化や一時的な体調不良などが原因で起こることも多く、数日で改善するケースも多くあります。
しかし、軟便の症状が長く続く場合には注意が必要です。
消化器の病気だけでなく、腫瘍などの重大な病気が隠れていることもあります。

今回は、軟便をきっかけに来院した犬で腸のリンパ腫が見つかった症例をご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の消化器症状の背景にある可能性のある病気について理解を深めていただければと思います。

犬の消化器型リンパ腫とは

リンパ腫は、リンパ球という免疫細胞が腫瘍化することで発生する腫瘍です。
犬では比較的よく見られる腫瘍の一つです。
リンパ腫はリンパ節だけでなく、消化管や皮膚などさまざまな臓器に発生します。
腸に発生した場合には、

  • 下痢や軟便
  • 嘔吐
  • 体重減少

などの症状が見られることがあります。
ただし初期の段階では症状が軽いことも多く、慢性的な軟便として現れるケースもあります。

犬の軟便が続くときに考えられる病気

犬の軟便が続く場合、以下のような病気が原因になっていることがあります。

  • 消化不良
  • 寄生虫感染
  • 炎症性腸疾患
  • 腸の腫瘍

今回の症例のように、腫瘍が原因となるケースもあります。
症状だけでは区別がつかないため、下痢や軟便が続く場合は早めに動物病院を受診しましょう。

実際の症例紹介

今回ご紹介する症例は、6歳2ヶ月齢の柴犬の避妊メスです。
繰り返す軟便を主訴に来院されました。
血液検査では大きな異常は確認されませんでした。
しかし、腫瘍マーカー検査では高リスクの判定となりました。
腫瘍マーカー検査とは、血液中の物質を測定することで腫瘍の可能性を評価する検査です。
この結果から、消化管の腫瘍の可能性も考慮しながら、経過を慎重に観察することになりました。

検査で見つかった腸の異常

症例は経過観察中に、下痢が悪化したため、腹部エコー検査を実施。
検査の結果、小腸の一部である「空腸」という部分が厚くなっていることが確認されました。
さらに空腸の近くにあるリンパ節も腫れていました。
これらの所見から、重度の腸炎だけでなく腫瘍の可能性も否定できない状態でした。

そこで、より詳しい診断を行うため、開腹手術による生検を実施しました。

開腹手術時の小腸(空腸)の様子です。
この部分の組織を採取し、病理検査を行いました。

開腹手術中写真 空腸

当院では希望があれば可能な限り迅速に検査を行っています。

最初の診断

病理検査の結果は重度空腸炎(低グレードリンパ腫との境界病変)でした。
これは重度の腸炎の可能性もありますが、リンパ腫との区別が難しい状態です。

そのため、まずは抗がん剤の一種であるクロラムブシルによる内科治療を行いました。
この治療により軟便は改善し、血液検査で低下していたアルブミンの値も回復しました。
症状は一度落ち着き、状態は安定しているように見えました。

病状の進行

内科治療を行いながら経過観察を続けていましたが、下痢と嘔吐がみられたため再度エコー検査を実施。
腹部エコー検査では空腸に腫瘤が形成され、腸閉塞を起こしていることが確認されました。

これが実際のエコー写真です。

エコー写真 空腸の腫瘤

腸閉塞は命に関わる状態になることもあるため、緊急手術を行い腫瘍を切除しました。
こちらが手術時に確認された空腸の腫瘍です。
この腫瘍が腸閉塞を引き起こしていました。

空腸のリンパ節腫大

空腸腫瘤の生検

切除した腫瘍の病理検査の結果は未分化大細胞性リンパ腫でした。
つまり、当初疑われていた低グレード病変ではなく、より進行したリンパ腫であることが判明しました。

化学療法

診断後はリンパ腫に対する標準的な抗がん剤治療(CHOPプロトコール)を行いました。
しかし副作用が強く、治療の継続が難しくなったため、抗がん剤を変更し別の化学療法を行いました。

経過

本症例は、治療を続けていましたが約1年後に肝不全により残念ながら亡くなってしまいました。
リンパ腫は進行が早い腫瘍であり、治療を行っても病気が進行してしまうケースもあります。

この症例からわかること

今回の症例では、軟便という比較的よく見られる症状の背景にリンパ腫が存在していました。
消化器症状が長く続く場合には、炎症性腸疾患だけでなく腫瘍の可能性も考える必要があります。
また腫瘍マーカー検査は、腫瘍の可能性を評価する手がかりとなることがあります。

まとめ

犬の軟便はよく見られる症状ですが、背景に重大な病気が隠れていることもあります。
今回の症例では、腫瘍マーカー検査や画像検査、病理検査を組み合わせることで診断に至りました。
その後は内科治療、外科手術、化学療法など複数の治療方法を検討しながら治療を行いました。

当院では症状や検査結果に応じて、可能な限り迅速な検査や治療の提案を行っています。
気になる症状がある場合は、ぜひご相談ください。

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